続・お降りの方は・・・。

良明

2008年03月02日 17:46



前編より続く

 やられた、やられてしまった、おやりになられてしまいました。「まだ半分も来とらんちゅーねん!」心の中で舌打ちした僕は、運転手さんに事情を説明しようと思った、が「まてよ..本当にこいつが押したのか?」、「確かに指は『それ』の近くにあったが、押したとこは見てないし..」、「もしや他の乗客が..」。
 少しの期待を抱いて僕は潜望鏡のごとく首をひねりバスの中を偵察した。

「1..2..3..4..5人」、「ご、ご、5人って..」、絶望的な確率である。「これじゃー今年もベースアップは難しいな..」、いかんいかん、今はバス会社の労使交渉なんか考えてる場合じゃない。
今度は降りるそぶりをしている人はいないかじっくり観察、だが全くその気配無し。そうこうしてる間に次のバス停はだんだん近付いてくる、にっちもさっちもいかなくなってどうしようか悩んでる時、隣のおばちゃんがおもむろにバックに手をかけた。

「おっ」、僕の目はおばちゃんに釘付けになったまま「降りてくれ..頼むから降りてくれ..」と祈った。
「あんた、謝苅の人なんだろう?いやきっとそうだ、だって謝苅顔(じら)してるし..」、いったいどんな顔が謝苅顔(じら)なのだろうか。
「お願いだから次の謝苅入口で降りてくれ、降りてくれたらもう降りなくていいから..」、もはや訳が分からない。

とうとうバスは停留所にとまった。だが、おばちゃんは一向に降りる気配がない。「降りねーのかよ!」勝手な思い込みである、そううまくも行くまい。
「しかたない、運転手さんに謝ろう..」。

「ウソピョーン(#^.^#)」。

そんな事を言えば殺されるに決まってるので、「すみません」と言いかけた時、僕にとっての「ヒーロー」が生まれた。
その「ヒーロー」はおばちゃんの3つか、4つぐらい後ろの席で、スーツを着たやせ形の初老の男性だった。男性はすくっと立ち上がりすたすた通路を歩いて両替機に千円札を入れた。「まさか両替だけってことは..」、少し不安になりながらも「ヒーロー」を凝視していると、さくっと料金をはらって降りていった。

「かっこいい..あんた、かっこいいよ..」、羨望の眼差しで男性の背中を見つめる僕、だがそうしてる場合でもない事に気がついた。またこの小悪魔たちが僕に試練をあたえるかもしれない。「今度は絶対に守り通すぞ..」、そう決意した頃バスはまた走り出した。


--つづく--