続・続・お降りの方は・・・。
中編より続く
それからというもの、僕と2人の子供は凄まじい戦いを繰り広げた。つぎつぎにお菓子を食べさせたり、おもちゃで遊んであげたり、どうにかあのボタンから興味をそらそうとするがそこは子供、すぐに思い出してはボタンに手を伸ばす。それを阻止するべく僕は腕をつかまえてはシートに座らせる。何度も何度も同じ事の繰り返し。さしずめ「複雑なモグラ叩き」である。
もうどこを走っているのか、どこに向かっているのかさえ解らない。真剣に仕事をしている運転手さんのすぐ後ろで、何かに取り憑かれたように無言で複雑な動きをする親子。その光景を僕は隣の席から見たかった。第三者の立場で見てみたかった。
泊高橋でバスは左に折れもうすぐ目的地という所で、こんどは息子の顔が豹変しているのに気がついた。手に持たせていたチョコレートのせいで両手はもちろん顔中こげ茶色になっているのだ。「や、やばい..」、こんな手でシートなんか触られたら、ましてやあのボタンを押そうものなら事態はさらに複雑なものと化す。
急いで荷物をひっくり返しハンケチを出そうとしたが、「ない..ない..お手拭きが入ってない」。しょうがないので、何か適当なものを選んでいると息子のパンツが目に入った。「しかたない..洗濯はしてあるし..本人も気にすることはないだろう..」。
すばやく手と顔を拭きあげて荷物をまとめていると、目的地のアナウンス「次は、大浜第一病院前、大浜第一病院前。」、ここぞとばかりにボタンを押しそそくさと料金を払って「奇妙な親子」はバスを降りた。
えもいわれぬ安堵感が僕に押し寄せてきたとき、ふと一抹の不安がよぎった。「ま、まさか..」。
不安は適中した、あのパンツを車内に忘れてきたのだ。あのチョコレートがべったりついたパンツ。あの眩しすぎる白いキャンパスにクリムソンレイキが塗りたくられたパンツ。誰が見たって、どうポジティブに見たって、う○ちがついた白いパンツにしか見えないパンツ。後から乗った人はともかく最後に車内を点検する運転手さんには、自分のすぐ後ろでそんなドラマが演じられていたとは夢にも思えない、「なんで俺がこんな目にあうんだ・・・。」、とボヤきながら何かで突っ突いてゴミ箱に放り込むであろうパンツ。
その後のパンツの運命を想像しながら、僕らは目指す妹夫婦の家に向かって歩き始めた。
--おわり--